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長野地方裁判所松本支部 昭和57年(タ)15号 判決

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

訴外亡髙橋一郎、同亡髙橋みすゝと被告髙橋邑二、同髙橋育子との間の昭和五四年一二月一七日届出による養子縁組が無効であることを確認する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

主文同旨。

第二  当事者の主張

一  原告

(一)  訴外亡髙橋一郎(以下、一郎という。)、同亡髙橋みすゝ(以下、みすゝという。)は生前夫婦であり、被告髙橋邑二(以下、被告邑二という。)と同髙橋育子(以下、被告育子という。)も夫婦であるが、一郎、みすゝを養親とし、被告らを養子とした昭和五四年一二月一七日届出による養子縁組(以下、本件養子縁組という。)がなされた旨の戸籍記載がある。

(二)  原告には本件養子縁組の無効確認を求める当事者適格がある。すなわち、養親子以外の第三者であつても、養親子のいずれかと親族であるか、判決により直ちに権利を得又は義務を免れる地位にある者であれば、原告適格を有するものと解すべきところ、原告は、養親のみすゝとは伯従母(五親等の血族)、養子の被告邑二とは再従兄弟(六親等の血族)の親族関係にあるだけでなく、一郎、みすゝ夫婦から一郎の財産の管理等を委任され、現に一郎の債券を預り保管中であつて、一郎、みすゝの相続人と称して右財産の返還を要求する被告らに対し、養子縁組無効確認の判決によつてはじめて確定的に返還義務を免れることになるから、原告には本件養子縁組の無効確認を求める原告適格がある。

(三)  本件養子縁組は、養親である一郎、みすゝ夫婦が意思能力を喪失して、縁組意思、届出意思など全くなかつたのに、被告らが縁組届出書を偽造し、これを届出てなしたものであるから、無効である。

すなわち、本件養子縁組の届出は、昭和五四年一二月一七日夕方に宿直で受付けられたのであるが、医師の診断によると、みすゝは同年一二月一五日意識混濁、失禁状態で入院したが、意識水準は進行性に低下し、肺炎を併発して、同月一八日午前八時に死亡したというのである。したがつて、みすゝは、同月一五日入院してから意思能力を喪失していて、本件養子縁組について縁組意思や届出意思などは全くなかつたものである。また一郎も昭和五三年一一月老齢性痴呆・神経性膀胱、慢性腎盂腎炎で入院し、昭和五四年三月身体状態(排尿)が好転して退院したが、老齢性痴呆は進行して、対話が不能で、妻みすゝの死亡さえ判らず、意思能力を喪失していて、本件養子縁組について縁組意思や届出意思などは全くなかつたものである(同人は昭和五七年一月九日死亡した。)。ところが、被告らは、一郎、みすゝの財産の相続をねらつて、勝手に右両名の印鑑を使用するなどして縁組届出書を偽造し、これを届出たものである。

(四)  よつて、原告は、本件養子縁組の無効確認を求める。

二  被告ら

原告には本件養子縁組の無効確認を求める当事者適格がない。すなわち、養親子以外の第三者にあつては、単に養親子と親族であるというだけでは縁組無効の確認を求める原告適格がなく、判決により、相続・扶養その他の身分的権利義務に直接影響をうける者、又は直接身分関係に基づく特定の権利を取得し、若しくは義務を免れる者に限り、原告適格があるものと解すべきである。しかるに、原告は、単に養親子と親族関係にあるだけで、判決により相続・扶養その他の身分的権利義務に直接影響を受ける者ではなく、また一郎夫婦から財産の管理等を委任された事実は全くなかつた(仮に原告が財産の管理等を委任されていたとしても、原告の右保管義務は、本件養子縁組が有効であることから直接かつ当然肯定される義務ではないし、一方本件縁組無効が確認されることによつて、原告は被告らに対する義務を負わないにしても、その義務主体は依然として免れることができず、結局、原告の右義務は本件養子縁組の有効又は無効によつて左右されない。)から、右のような原告適格を有しないことは明らかである。

よつて、被告らは、本件訴の却下を求める。

第三  証拠関係(省略)

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